HOWLRS / 寺島和宏

SynapseGit — AIと人間の共創で「なぜこの形になったか」を残す

完成したものだけでは、創作の価値を引き継げない

AI と一緒に文章、画像、デザイン、企画をつくる時間が増えるほど、完成ファイルだけを残すことの物足りなさが見えてきます。

たとえば、あるビジュアルを採用したとします。そこには「最初に何を表現したかったか」「どの写真やメモを材料にしたか」「AI が何を提案したか」「なぜ人がその案を選んだのか」という過程があります。次の担当者や数か月後の自分がファイルを開いても、その理由までは分かりません。

SynapseGit は、こうした共創の背景を成果物と同じくらい大切に扱うための Git-like Core です。完成物を正解として固定するのではなく、意図・観測・AI の提案・人間の判断を分けて残し、「なぜこの形になったか」をあとから辿れるようにします。

SynapseGit Local のプロジェクト要約。参照の数、完了 session 数、要確認数を一目で確認できる。

「今、引き継げる状態か」を要約で確認できます。掲載画面は sample repository を単一のローカル process から 127.0.0.1 に配信して撮影した read-only viewer です。公開・複数ユーザー向けのクラウドサービス画面ではありません。

AIの提案を「答え」ではなく、対話の一部として残す

AI は素早く多くの選択肢を出せます。しかし、提案が採用されたことと、その提案が唯一の正解であることは別です。人が採用するまでには、文脈に合うか、相手に伝わるか、表現として納得できるかといった判断があります。

SynapseGit では、AI の出力を proposal(提案) として記録し、人間の decision(判断) から切り離します。採用・却下・保留という人の選択と、その理由を後から見直せるため、AI に任せた部分と人が責任を持って選んだ部分を曖昧にしません。

これは AI を疑うための仕組みではありません。むしろ、提案を安心して試し、人が創造的な判断に集中するための余白です。採用しなかった案も「失敗」として消えるのではなく、次の対話に活かせる選択肢として残ります。

人間の判断と AI 出力の選択状態を示す session の要約。採用(adopt)、AI output selected、検証済み object 数を分けて表示。

AI が出したこと、AI の出力を人が選んだこと、記録が検証できることを、別々の情報として確認できます。

引き継ぎを「ファイルを渡すこと」から変える

共創の記録が役立つのは、制作しているその瞬間だけではありません。

| こんな場面 | 残っていると助かること | |---|---| | 次の担当者に引き継ぐ | 完成物だけでなく、意図と採用理由から仕事を始められる | | クライアントやチームに説明する | 「AI が出したから」ではなく、人がどの基準で選んだかを共有できる | | 自分で作り直す | 過去の自分の判断を再利用し、同じ迷いを最初から繰り返さずに済む | | AIとの協働を改善する | どんな入力・提案・判断が良い結果につながったかを振り返れる |

記録すべきなのは、もっともらしい物語ではありません。SynapseGit は「観測したこと」「解析が示したこと」「誰かの解釈」「人が下した判断」を同じものとして混ぜない設計です。だからこそ、後から読む人が、どこまでが事実として確認された情報で、どこからが人の意味づけなのかを見分けられます。

作品に、説明できる来歴を与える

作品や成果物にとって、来歴は付録ではありません。どんな制約のなかで、誰の視点を尊重し、どの選択肢を見送って今の形に至ったかは、その作品の価値の一部です。

SynapseGit は、Plan、Activity、Observation、AnalysisResult、Claim、Human Decision といった異なる層を別々の immutable Record として保存します。最終的には snapshot としてまとめ、更新可能な Ref で参照します。それにより、「変えた結果」だけではなく、「変える前に何を考え、何を根拠にしたか」を作品とともに保てます。

Creator session、proposal と decision の Ref、最近の reflog をまとめて示す画面。

提案と判断が別の Ref として残るため、誰かが次に作業を始めるときも「完成した」という結果だけでなく、そこへ至る二つの流れを辿れます。

もちろん、記録が何かを自動で証明するわけではありません。OID が示すのは定義済みプロファイル上のバイト列の同一性であり、著作権、真実性、撮影時刻、権利や契約適合を保証するものではありません。この慎重さは、AI と人間が関わる記録を必要以上に権威づけないために大切です。

「誰が選んだか」を置き去りにしない

現在の単一クリエイター向け Pilot では、original、current、AI output という三つのファイルを入力として扱い、AI の提案と人間の判断を別に保存します。採用は「AI の案を変更なしで選んだ」という意思決定として残り、AI が自ら生成したことや、視覚的・物理的に同じ対象だということまで主張しません。

この控えめな姿勢は、人間の責任と創作の余地を守るためのものです。AI が候補を広げ、人が意味と責任を引き受ける。その協働の境目が残っていれば、未来の人も判断を理解し、必要なら新しい判断を重ねられます。

Original、Current、AI output を並べて表示する creator session。三者を別の role として保つ。

同じ画面に並べても、三つを同一視しません。比較した材料を残すことで、次の人が判断の前提を自分の目で確かめられます。

これから目指すこと

SynapseGit は Core v0.1 / Stage 0 draft として進行中です。ローカル viewer は read-only で、アップロード、Human review、export / restore の UI はこれからです。固定視点の撮影データセット、画像の位置合わせ、視覚的・物理的な差分解析も未実装です。

それでも、いま形にしている核は明確です。AI を使う創作が当たり前になるほど、完成物だけでなく、その作品に込めた人の意図、AI との対話、選び取った理由を渡せることが大切になる。SynapseGit は、その価値を失わせないための基盤を目指しています。

リポジトリ

SynapseGit のソース、仕様、Quickstart、CLI reference は GitHub で公開しています。